「携帯電話でテレビ番組が観たい」と思っている人は多いと思うけれど、何を隠そう・・僕もそのひとりだ。
スポーツやニュースなど、出先でも手軽に観られたら楽しいと思う。それを本格的に実現させるためのキーワードが「ワンセグ」放送だ。ワンセグは、2006年4月にスタートが予定されている。
家庭用テレビを対象にした地上デジタルテレビ放送、いわゆる「地デジ」が2003年12月1日から東京、大阪、名古屋地域ではじまっていることはご存じだと思う。ワンセグとは、その一部(13セグメントに分割した帯域の1セグメント)を利用して携帯電話やカーナビ、ポータブルTVやPDAなど、移動体機器向けの放送サービスを実現させたものだ。ワンセグの受信端末を持っていれば無料で視聴することができる。
さて、ワンセグのしくみについてはほかのサイトをご覧頂くこととして、ここでは「携帯電話でテレビが見るぞ」と意気込んでいる皆さんのために、ワンセグのよく解らないぞという部分を、NTTドコモに聞いてみたのでレポートしたいと思う。NTTドコモでは無線アクセスネットワーク部の移動無線技術担当課長
引馬章裕氏と、無線アクセスネットワーク部の無線アクセス企画部門 総括担当の白藤 秀和氏が応対してくれた(ありがとうございました)。
ワンセグについて、現状の疑問点をアレコレ質問する前に、まずは携帯電話でワンセグ放送を見せて貰った。雑音もノイズもそれほど感じないクリアな印象だった。
■NTTドコモに聞く
取材に応えてくれたNTTドコモの無線アクセスネットワーク部の引馬章裕氏と白藤
秀和氏。 |
神崎「現在、ワンセグ放送はすでにテスト放送が行われているんですね。」
ドコモ「はい。現在、既にテスト放送は行われていますが、テスト放送は本放送とは違う映像です。リアルタイムで同じ番組を送出する機械が完成していないため、のようですが、ワンセグの本放送が始まったら、映像と音声は本放送と同じものになります」
ワンセグ放送の音声は本放送と一緒にする取り決めがあるようだが、小さい画面用に映像は変えることは可能のようだ。しかし、テロップ処理などを含めて、映像を変更すると番組制作サイドとしてはコスト高になるので積極的には取り組まないのではないかという見方だ。つまり、現時点では、ワンセグ放送は視聴率の対象になっていないので、放送局としてはコスト高にしたくないという事情があるようだ。現在のしくみではこれは当然のことだろう。そこで、いきなり核心に関連する疑問が湧く・・果たして、このワンセグ・・誰が儲かる・・誰のためのビジネスなのだろうか。
■まず大切なのはワンセグが観られる機種をラインアップすること
神崎「NTTドコモはキャリア(通信事業者)として「ワンセグ」をどのように受け止めていますか?
つまり・・3Gサービスの更なる起爆剤として期待しているのか、それともワンセグ放送が始まるのだからとりあえずは対応機種を揃えなければ・・というか・・」
ドコモ「正直言って、後者に近いですね。3G買い替えの起爆剤になるかは現在はまだ解らないです。ただ、お客様の要望として"ちょっとした待ち時間に携帯でテレビが観たい"という声はあります。他社の製品でもアナログチューナを載せた携帯電話は今までにあったと思いますが、おそらくユーザが満足する品質の製品が与えられなかったのでしょう。ワンセグで初めて携帯でテレビがちゃんと観られるというレベルになった、"それなら欲しい"という人は出て来るでしょうね」
神崎 「キャリアとしては当然、ワンセグをどうやってビジネスにするかが重要な課題だと思いますが、NTTドコモとしてはワンセグをユーザが観るだけでは、(課金などの)ビジネスにはならないですよね?」
ドコモ「そうですね。まずラインアップとして、ワンセグが見られる機種を他社同様に揃えておく、ということは大切なことです。しかし、アナログ放送でもデジタル放送(ワンセグ)でも、ユーザが番組を観るということについてはキャリアとして(課金などで)は儲かりません。無料放送ですから。
ワンセグの場合、"くわしくはコチラ"などのデータ情報やリンク情報をクリックして、iモードなり、インターネットなりのサイトにジャンプして頂いて、そこでiモードと同じビジネスモデル(パケット通信料など)が発生します。例えば、あるテレビドラマをユーザが観ていて、テレビ局の有料iモードサイトにジャンプして表示したり、そこで売買が発生すると契約によってはビジネスになるというしくみですね」
■放送と通信が融合したメディアとなる可能性は?
神崎「ワンセグ放送の下に、ドコモのビジネスとしてiモードサイトを積極的に表示していくようなことはできないんですか?」
ドコモ「テレビ放送の分野とインターネット通信の分野は完全に分離して表示しなければいけません。ワンセグ画面の上半分に番組を放送し、下半分にデータ放送を流す、その両方をテレビ局がテレビ放送として行うことには問題ありませんが・・」
神崎「テレビ画面を見ながらiモードサイトを表示することはできない?」
ドコモ「できません。例えば、テレビ視聴中に関連する情報をデータ放送で表示するのは可能ですが、番組の放送局のiモードサイトにジャンプした場合は、その時点で番組画面を表示してはいけない、ということになっています」
神崎「ということは、ワンセグ放送を上に表示して、下でネットサーフィンをするようなiアプリを作ったりしてもいけない、ということですね」
ドコモ「現段階ではいけないんです。放送規格で禁止されています。将来的に緩和されればどうなるかは解りませんが、現段階では放送と通信で線引きがされています。放送の延長(もしくは一部)として放送局が設置しているサーバの情報をワンセグ放送に同時に表示することができますが、インターネットなどの通信サービスのサーバの情報は勝手に表示することはできない、ということになっています。」
神崎「情報が混同しないように、ということですね」
ドコモ「ワンセグは"通信を前提にした放送サービス"としてスタートしますので、そうなっているんでしょう。おそらくキャリア各社は、番組放送の下にインターネットサイトの情報も表示させた方が、ビジネス的にもユーザに対するサービスとしても良いに違いない、と思っていると思います。しかし、放送サイドとしては画面の下半分に表示される情報が管理できないとまずいわけです。例えば、人気ドラマをやっている下で、それに関連した模造製品のCMサイトが表示されるとまずい・・ですよね」
神崎「なるほど。例えば、放送局が配信している清純派アイドルが主演するドラマの下でアダルトコンテンツが表示されていては困るとか、ですね」
ドコモ「そうですね、解りやすい例のひとつとしては・・。放送局としても放送局のiモードサイトくらいは表示したいところでしょうし、ビジネスとして考えればその方が良いのですが、そこはきちんと線引きをしよう、ということになっているようです。そこで、ドコモのビジネスとしては、どこまでワンセグ放送が観られるものか、そしてその下のデータ通信をクリックして、更にiモードサイトにジャンプして通信料収入が得られるのかが、今はまだ解らないのが実状ですね」
神崎「よく解りました。逆にワンセグがビジネスを圧迫する可能性も想定していますか?」
ドコモ「テレビを観るというだけだと、現在の当社のビジネスモデルにはプラス要素にならないことはお解り頂けたと思いますが、そのせいで"通話時間が減る"ということはないとは思っています」
神崎「テレビ観るから電話するのはやめようって人はいない(笑)」
ドコモ「通話やiモードを含め、"携帯電話を使っていない時間にテレビ番組を楽しむ"という使い方は、当社としても嬉しいし、ウェルカムのことなんですが、例えばiモードやiアプリを利用する時間が減って、テレビを観る時間になる、ということになるとビジネス的にはあまり良い方向とはいえませんよね。その点が難しいところかな、と思います」
■ワンセグ放送は誰のためのビジネスなのか
神崎「ユーザがどのように使うかがまだ見えない、という悩みはそこなんですね」
横置きにすると、番組は液晶いっぱいに見やすく表示される。しかし、その分、データ放送の表示領域はなくなる。 |
ドコモ「そうです。この携帯電話をこのよう(右画面)に横画面にすると、番組の画面が見やすくなります。番組の見やすさから言えばこちらの方がいいのですが、その分、データ放送の表示が無くなるので、通信料などのビジネスの発生は(クリックして次のアクションが起こしにくくなるので)難しくなってしまいます。そのため、現時点では、何人かで観るなど、大きい画面で観たい場合は横で見て頂いて、データ放送を表示して遊びながら観たい場合は縦で観る、といったように、(ドコモがユーザの使い方を決めるのではなく)利用するスタイルをお客様が選択できるということが重要だと思っています。そういった意味でも、お客様がどのような使い方をするかが見えていないので、まだなんとも言えない状態なんですね」
純粋にビジネスとしてワンセグを考えた場合、誰が儲かるしくみになっているのだろうか?
ドコモは電話キャリアだから端末がテレビ放送を受信することでは儲からない、ということはわかった。そうなると、放送局はワンセグの放送としてインフォマーシャルを流すなど、放送と販売が連動したデータ情報などを流せば、そこにビジネスのチャンスがあるということではないだろうか?
そうなればワンセグは放送局にとってはビジネスチャンスだ。・・しかし、必ずしもそう単純なものでもなさそうで「それにも少し難しい点があるように思います」という意見だった。
つまり、今回のワンセグは13セグメントのうちの1セグメグメントを利用した「部分放送」という位置付けになっている。あくまで当初はオマケとして扱いたいのである。それは、放送局がワンセグを新しい放送だと定義したり、新しくビジネスになるメディアだと位置付けたとしたら、著作権ホルダーなどに対して支払う料金面でいろいろな取り決めが新たに必要になってくることが必至だからだ。テレビ放送とインターネット放送(ストリーミング)の著作権でもいろいろと難しい課題を抱えているのと同じジレンマに陥りかねない。
またワンセグが、本放送と同じ番組を流さなければならないという制約があることからして、放送局としても、4月1日からの本放送開始以降で視聴者の反応を見た後、じっくりと検討した上でないと、あまり目立ったビジネスの企画を立てるのは難しいのが現状のようだ。
携帯電話でテレビが観られるということへの期待はとても大きいと思う。ワクワ感さえある。新しいメディアの誕生としてお祭りのように騒いで盛り上げたいところだが、放送局やキャリアのビジネスというシビアな現場では、ビジネスとしてのワンセグの方向性はまだ見えてこない、というのが本音のようだ。
次回も引き続き、ワンセグについて取材で聞いた内容をレポートする予定。
端末の仕様や録画機能など気になる点を更に明確にしたい。
(取材は2005年10月24日実施) |